間柴の雑念

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30年間ガラケーを使っていた父親がついにiPhoneを手にした結果

「Hey!Siri!」

 

 

実家の玄関を開けると、

50代後半の男性の陽気な声がリビングから高らかに聞こえた。

 

 

リビングに入りすぐ左に目をやると、

IKEAで買った大きな大きなソファの中央を陣取り、

ピカピカなiPhone7を両手で大事そうに持っている父親がいた。

 

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まだ僕の存在には気付いていないらしい。

 

 

「..ただいま」

 

 

とゆっくり話しかけてみると、

 

 

「あ、おかえり!」

 

 

こちらを見て明るく言うものの、

視線はすぐiPhoneへと戻る。

 

デジタル機器>息子

 

らしい。

 

 

従来の帰省では、この「おかえり」の挨拶の後に

 

 

「東京は寒い?」

「仕事はうまくいってる?」

「久々の茨城はどう?」

「電車は混んでた?」

 

 

といった父親からの他愛のない質問で始まり

徐々に帰省の実感を膨らませていくのがお決まりだった。

 

 

しかし今回に限り、

父親からの最初の質問はこうだった。

 

 

「了(おれ)の携帯には女の人いる?」

 

 

どうやらiPhone音声認識機能にどハマりしている模様。

その後も、

 

食事中。ゲーム中。雑談中。

車で移動する最中。

 

隙があれば

 

 

「Hey!Siri!」

 

 

と元気に呼び出し、

 

 

「はい、なんでしょう?」

 

 

とSiriの優しい声が鳴り響く。

父親の日常はappleに支配されていた。

 

iPhoneに乗り換えるまでは、

会社支給のガラケー

30年前からず〜っと使っていた父。

 

携帯に自分の声を投げかけるだけで反応してくれる現象は

もはや感動という一言では

受け止めきれていないようだった。

 

 

 

ところが、僕や兄、母親は、

父親のSiriとのやり取りを見ていて、

たびたび疑問を抱いていたと思う。

 

 

というのも、

父親は毎度、威勢よくSiriを呼び出すのだが、

その後は何か尋ねるわけでもなく

 

 

「わかったよ!」

 

 

と元気よく言ってやり取りが終了するからだ。

何が「わかった」のかは、よくわからない。

しかしひとつ明確に言えるのは、

 

「一切、用がない」

 

ということだ。

 

 

一切、用がない。

 

 

この事実は当人にとって

徐々に深刻な問題となっていった。

 

もっとSiriをフル活用したい、

ライフハックしたい気持ちが高ぶる一方で、

特にSiriにお願いする用件がないという痛恨の事態に本人は気付き始めた。

 

そのジレンマに苛まれ続け、

終盤ではSiriを呼び出すもののいつもの元気はなく、

 

「..わかったよ..」

 

と憂いた表情でボソッとつぶやくほどに

疲弊してしまっていた。

 

 

そんな時に救いの手を差し伸べたのが

母親だった。

 

 

「目覚ましお願いしたら?」

 

 

おおお!

それだ!

いいね!

そうだよ!

 

四方八方から歓声があがった。

その日の翌日はAM6:00に起きなければならず、

Siriにお願いするにはベストタイミング。

今しかない!

 

 

父親は満面の笑みを浮かべ、口を開いた。

 

 

「Hey!Siri!!」

 

 

腹式呼吸をしたかのような、

立派な発声だった。

 

 

「明日の朝6時に、、えっと〜、あーごめんもういっかい!!!くぅ〜www」

 

 

めちゃくちゃ楽しんでる。

たぶん、Siriだけで機器代金の元取れてる。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

明日から仕事だ。

東京に戻るべく、支度をし、

駅へと歩き始めた。

 

すると道中、誰かからの着信。

画面には父親の名前が記されていた。

 

と同時に、次のような文字の記載もあった。

 

FaceTime

 

僕はほんの少し、懸念した。

何に懸念したのかはこの時点ではわからなかった。

 

とりあえず、電話に出た。

 

 

「もしもーし!

お父さんの顔、ちゃんと写ってる!?」

 

 

そりゃあもう、鮮明に写っているよ、と伝えると、

 

 

「いや〜FaceTimeってすごいね!

わかったよ!じゃあね!」

 

 

 

 

どうやら、ブームは

SiriからFaceTimeへと移行した模様。

そして最初のターゲットは自分のようだ。